今年3月まで大船渡病院に勤務していた小児科医:石川医師が昨年末に発表した論文が公開されました。2010年1月1日から2019年12月31日の10年間に出生し,現在も同院へ通院している児を対象として,岩手県気仙医療圏のダウン症児の医学・療育・福祉の面の管理状況をまとめた内容です。
対象となったのは10例で,身体合併症として心臓が6例,一過性骨髄増殖症(白血病への移行はなし)・甲状腺機能低下症・内斜視がそれぞれ2例,環軸椎亜脱臼が1例,身体合併症のないものが2例などとなっています(複数合併例を含む)。比較的多いとされている消化管と耳鼻科合併症は認めませんでした。しかし,そのためか,他の合併症のフォローが『アメリカ小児科学会のダウン症候群児の健康管理指針』に比較的則っていたのに対し,耳鼻科でのフォローが不十分であったとの結果でした。
また療育面では,自治体療育教室への参加(開始年齢・内容の記載はなし)は6例であり,理学・作業・言語聴覚のいずれかのリハビリを受けた例も6例で,開始年齢は概ね2歳以降でした。この点について石川医師は,前述の管理指針では1歳以降の早期に介入することが推奨されているが,大船渡病院での開始時期は遅かったと報告しています。また,早期療育の有効性に対する報告を数件述べたのち,重要性を認識しながらも,「岩手県では施行可能な施設は岩手県立療育センターにほぼ限定されており,早期療育開始における課題である。」と述べています。
社会福祉制度による支援については,特別児童扶養手当は全例で受給しており,8例で小児慢性特定疾病医療費助成制度を利用していました。病院での小児科医やケースワーカーによる適時サポートが行われており,対象児での取得漏れはなかったとの結果です。しかし,療育手帳の取得は3例のみでした。また,「管理指針では両親の心理的な状態を評価・サポートすることも推奨されているが,同医療圏には家族団体は組織されていないため,家族の情報共有の場を設け,心理的なサポートを行っていくことが今後の課題である。」としていました。
とても分かりやすく地域のダウン症児を取り巻く環境についてまとめられており,また,課題も明確となっています。しかし,折角の明確にされた課題も,対応しなくては意味がありません。当NPO理事長も同じく大船渡病院の医師であり,これらの情報を得たことがNPO設立の動機となっています。課題とされた早期療育の提供と家族間での情報共有や心理的なサポートの提供こそが当NPOの基本的活動です。
また,気仙医療圏だけでなく岩手県全体の実状を現在調査中のようですので,続報に期待したいと思います。
参考文献
気仙医療圏におけるダウン症候群児の管理状況について
石川他.岩手県立病院医学会雑誌 61(2): 88-93, 2021.